第36号の続きである。
会社のベランダに引っ繰りかえっていたカラスを処理してから、だいたい3週間たった。
鳥インフルエンザの潜伏期間は2週間〜3週間である。感染していればそろそろ発症の頃合いだ。
しかし、今のところ何もない。肩と首筋が激しく凝っており、過去の体験からしてインフルエンザの前兆のひとつではないか、とも考えられるが、カラスを片付ける前からこうだったような気がする。
あんまり世の中でも感染は騒がれていないようで、ご同慶の至りである。今のところは。
28日、現像所に寄って昼すぎに出社したのである。
するとなんだか様子がおかしい。席に座ったら先輩の三船氏が寄ってきて、「喫煙所に珍しいものがあるよ」というのである。見に行くと、畳3畳分ぐらいの広さのベランダ——社内は禁煙なので、そこが喫煙所になっている——に、カラスが引っ繰りかえっていた。
子細に見ると、カラスは仰向けになっており、足をばたばたさせているが起きあがれない。ベランダに仰向けになっている背中からはクリーム色の糞がはみだしている——つまり自分の糞の上に転がっている——がカラスはそこから動けない。
「ちょっとやばい」
感じがした。これは明らかに病気なのではないか。鳥インフルエンザじゃなかろうね。鳥インフルエンザが発生した養鶏場の近くで発見されたカラスの死体から鳥インフルエンザ菌が検出されたというしね。
ふと気がつくと、みんな遠巻きにしている。上のフロアからわざわざ降りてきて講釈を垂れている者もいて、何気なく人口密度が高まっているのだが、しかし関わらないようにしているのである。
保健所に引き取り依頼の電話をかけていたバイト君が、「保健所からは断られました。ゴミとして捨ててくれといってます」という。それでは片付けるしかない。
「ゴム手袋と、マスクを貸して」
と言ったのだが、軍手しか出てこなかった。しかたなく炭カルのゴミ袋を二重にし、ベランダに出て行った。
カラスは足をまだばたばたさせている。軍手をした片手で両足をつかむと、抵抗したがあっけなく逆さ吊りになった。ふだん、カラスはこのベランダには寄りつかない。相当弱っているようだ。掃除のおばさんのレミさんが袋を広げてくれたので、糞にさわらないようにして袋に収め、口を密閉してガムテープで留めた。
そのときから上空には何羽ものカラスがギャアギャア飛び回っており、仲間が死に瀕していることがわかっているようだった。異常な雰囲気である。会社の前に袋を出すときに、仲間から攻撃されたらいやだな、と思ったが、低空で威嚇してくるようなこともなかった。
糞はレミさんが洗い流して掃除した。片付けて手を洗っていると、遠巻きにしていた奴らは皆何事もなかったかのように仕事に戻っている。万が一私が鳥インフルエンザで倒れたりしたら、こいつら面白おかしく私のことを月旦するのであろう。
……という話をさっき、他社の雑誌の編集者にしていたら、
「感染が発覚したら、職場ごと隔離されるらしいですよ。だれか感染しないかなあ。そしたら雑誌を出さなくてすむ」
と「運動会の日、雨が降らないかなあ」と夢見る小学生のような顔をしていった。これから出版業界は年末進行で「死のロード」なのである。
ところで私はいま、頭が痛く、下痢していて肩と首がばりばりに凝っている。で高熱が出たら、こいつはインフルエンザの症状なのではないか?
でも調べてみると、鳥インフルエンザはカラスからはヒトに感染しにくく、しかも潜伏期間が数週間あるという。この日は会社に来る前から具合が悪かった。そしてその日は午前3時まで仕事をした。だから、症状がインフルエンザか風邪か過労なのか全くわからないのであった。
カラスはその後会社の前で息絶えたようで、保健所の指示通り燃えないゴミとして出された。野鳥が死んでいるというのはそうそう珍しいことではないし、駆除の毒饅頭でも食ったのかもしれないけれど、時期が時期なので、エントリとして残しておく。写真も不掲載を考えたが、もしかしたら世の中の役に立つかも知れないので掲載しておく。いやな人は見ないでください。![]()
*首を曲げ、苦しそうに足をばたつかせているカラス。11月28日、RICOH GRDigitalで撮影。
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