
*ニコンD90で撮影したお披露目会場。人物が写っているのでトリミングしてある。室内なので、ISOは720相当。動画は残念ながらやはり人物が写っているので公開できない。
今月19日に発売になるニコンD90は衝撃のカメラである。
一眼レフとしては初めて、動画を撮影することができる。
渋谷で一般向けのお披露目があったので、出かけてみた。
ニコンは太っ腹である。自分のSDカードを持って行くと、画像も動画も記録して持って帰ってもいいことにしてくれていた。そこで画像と動画を記録し、帰って分析してみた。
「Dムービー」と称する動画撮影機能は、ファインダーではなく背面の液晶画面でピント合わせをする「ライブビュー」機能と一体化されている。
液晶画面の右上に「Lv」ボタンが新設され、押すとすぐミラーがアップされ、撮像素子に映し出された画面が液晶に表示される。すなわちライブビュー状態。ここでピント合わせしてシャッターボタンを押すと、通常の静止画像が撮影できる。
「Lv」ボタンを押した次に、メニューボタンの「OK」を押すと動画撮影が始まる。動画撮影時にはオートフォーカスは効かないが、液晶画面で確認しながらレンズのピントリングを手で回すことで十分ピント合わせが可能だ。
レンズキットとして併売されるAF-S DX 18-105G VRを使って望遠端にし、手前にピントを合わせると、ピントの合っていない奥のほうは美しくぼける。つまり、写真のような動画が撮れる。それってどういうことなのか。
そう、映画のような描写が手に入るのである。
アップにすればきれいなボケ味を。ロングは超広角も使える。
写真用のニッコールレンズがとっかえひっかえ使えるのである。
ビデオカメラでは撮像素子が小さいため、ピントの合う範囲が広い。だからこれほどきれいにぼけはしない。プロ用機材でなければ撮れない動画が、10万円そこそこの機材で手に入るのである。
弱点もある。撮像素子(CMOS)の読み込みの関係だろう、カメラを激しくパンすると、ものがゆらゆらとゆがんで写る。また、逆光の処理はビデオカメラに一日の長があるようだ。
しかし、これはおそらく撮影方法でカバーできる。映画撮影のようにカメラをしっかりと三脚に据え、激しいパンをしなければ問題はないと思われる。だから、「Dムービー」は子どもの運動会の記録のようなホームビデオ用途には向かない。操作はフィルム時代のマニュアルカメラを思わせ、もっと言えば高校生のときに私が熱中した8ミリムービーカメラの操作に似ている。
私に説明してくれたニコンのお兄さんは、Dムービーを「おまけ機能」と言い切った。
たしかに、「Lv→OK」で撮影開始、そして動画撮影中にシャッターボタンを押せば、通常の静止画像が撮影できて動画撮影が中止する仕様は、D90が「動画撮影機ではなく、カメラですよ」と主張しているように見える。カメラの画質はD300とほぼ同様で、スチルカメラだけと考えても完成度は高い。
大変すっきりしており、いさぎよい。
しかし、この機能は映像体験を変える可能性を秘めている。
私はアップルの“iPod”を日本における最初の発売日に買った。
それまでのポータブルプレーヤーでの音楽体験は、テープのウォークマン、CDウォークマン、MDまで、ほぼアルバム1枚分がひとつのメディアに収まるように設計されていた。iPodは大容量HDにデータを収めることにより、自分のCD棚を全部持って歩けることになるのだ。これは、それまで「ウォークマン」の独擅場だった音楽体験を根底から変える革命だった。オンラインで1曲単位から変え、podcastやストリーミング配信でラジオの概念も変えるに至った“iTunes”と“iTunes store”しかり、そして“iPhone”しかり。アップルの強みは「体験」の既成概念を根底から覆すことにあった。それを感じたから、私はとびついたのである。その日以来、たしかに「音楽体験」は変わった。
ニコンが提案する、新しい「映像体験」は、従来の、紙にプリントして見たり、スクリーンに映写する鑑賞方法から、ディスプレイで見ることが主になったこと、そしてweb上で静止画と動画がシームレスに近いような形で扱えるようになるという環境の「統合」が背景になっているように思われる。写真から動画へ、動画から写真へ簡単に行き来する。両者の垣根は、今後なくなっていく予感を秘める。
ニコンは、長年堅牢性、信頼性を追求してきたメーカーである。シャッタースピードの高速化など革新的な技術の投入もあったが、すべては「写真を撮る」道具であるカメラというものの「機能」を突き詰めてきた。しかし昨年から、ニコンは「写真体験」を変える方向にシフトしてきている。D3の高感度性能に代表される「今まで写せなかった領域を写す」。コンパクトカメラに無線LAN機能を搭載することで「撮った写真をすぐネット経由で見る」。そしてD90では「デジタル一眼レフで、動画を撮る」という、全く新しい映像体験の提案に進化した。アップル同様、ソフト面から働きかけられるメーカーに躍り出てきたのである。これは驚きだ。
しかし、アップルがその機能をデザインと一体のものとして、かたちそのものからコンシューマーに働きかける(それはパッケージにも徹底していて、iPod、iPhone、そしてMacbook Airの箱を開けた人は、そのときの新鮮な感動が忘れられないだろう)のに対し、D90のデザインは、先代のD80、さらにルーツとなったD70とほとんど変わらないし、持った感じも全く違和感がない。他のメーカーだったら、まず新しいデザインを与えるだろう。
そのあたりが、いかにもニコンらしいとも思うのである。
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